— 竜舌蘭(リュウゼツラン)という植物の話 —
長寿源の入り口近くに、ずっと変わらず立っていた植物があります。鋭い葉を地面に広げ、特別に目立つわけでもなく、ただそこに在り続けていた「竜舌蘭(リュウゼツラン)」です。
ところがある日、その姿に明らかな変化がありました。中心から、まっすぐ天に向かって太い茎が伸び始めていたのです。日を追うごとに高さを増し、気づけば人の背丈を軽く超え、まるで一本の木のような姿になっていました。
そして、竜舌蘭が花を咲かせました。




竜舌蘭とはどんな植物なのでしょうか
竜舌蘭(学名:アガベ)は、メキシコや中南米を原産とする多肉植物です。乾燥地帯に適応した植物で、肉厚で硬い葉を放射状に広げ、葉の縁には鋭いトゲ、先端には強い刺を持っています。
最大の特徴は、一生に一度だけ花を咲かせる植物であるという点です。長い年月をかけて栄養を蓄え、ある時期に達すると、すべてのエネルギーを使って巨大な花茎を伸ばし、花を咲かせます。
英語では「センチュリープラント(Century Plant)」とも呼ばれ、「50年に一度」「100年に一度咲く花」として知られてきました。実際には、開花までの年数は環境や個体差によって異なり、10〜30年ほどで咲くこともあるとされています。それでも、人生で一度見られるかどうかの出来事であることに変わりはありません。
写真から伝わる、竜舌蘭の迫力
今回、農園で咲いた竜舌蘭は、まさに資料で見るような典型的な姿でした。一本の太い花茎から左右対称に枝が伸び、その先に黄緑色の花が房状についています。
近くで見ると、花は決して派手ではありません。しかし、無数の細い雄しべが放射状に広がり、静かながらも強い生命力を感じさせます。
遠くから見ると、まるで突然一本の樹木が出現したかのようです。数ある薬草の中に立つその姿は、日常の風景の中で明らかに異質です。通りかかる人が足を止め、見上げ、写真を撮る姿も見られました。
花が咲いたあと、竜舌蘭はどうなるのか
竜舌蘭は、花を咲かせ終えると、主株は徐々に弱り、やがて役目を終えます。これは「単回結実植物」と呼ばれる性質で、植物としてはとても潔い生き方です。
しかし、それで終わりではありません。多くの場合、根元には子株が現れ、次の世代が静かに育ち始めます。親株はすべてを出し切り、その命を次へと託します。
竜舌蘭の花が教えてくれること
竜舌蘭は、何十年ものあいだ、ほとんど変化なくそこに立ち続けます。注目されることもなく、評価されることもなく、ただ時間を重ねていきます。
そして、人生で一度だけ、全力で花を咲かせます。
その姿は、人の生き方とも重なるように感じます。積み重ねた時間は、決して無駄にはなりません。咲くときは、必ず訪れます。
この農園で竜舌蘭が花を咲かせたことは、ひとつの出来事であり、ひとつの記録です。この土地、この気候、この年月があったからこそ、今、ここで咲いたのだと思います。
竜舌蘭の花は、華やかさで目を引く花ではありません。けれど、時間そのものが形になった花だと感じています。
竜舌蘭は、人生で一度だけ、空に向かって咲く
竜舌蘭がこの土地を選んでくれたこと、そして、この瞬間に立ち会えたことに静かな感謝の気持ちを覚えます。












